オープン・サロン「未踏ソフトウェアの創造」
Open Salon "Creation of Exploratory Software"
time: 02:22:04
日時: 2006年7月8日(土)16時 | Date: July 8 (Sat.), 2006 16:00
会場: ICC 5F ギャラリーA | Location: ICC 5F Gallery A
参加者: 北野宏明,茂木健一郎,遠藤拓己,徳井直生,永野哲久,城一裕,ドミニク・チェン
Panelists: KITANO Hiroaki, MOGI Kenichiro, ENDO Takumi, TOKUI Nao, NAGANO Norihisa, JO Kazuhiro, Dominick CHEN
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- □ 《Monalisa》 プレゼンテーション | "Monalisa" Presentation
- □ 討議 | Discussion
- □ 《Phonethica》 プレゼンテーション | "Phonethica" Presentation
- □ 討議 | Discussion
InterCommunication - ICC Report
ソニーCSL副所長の北野宏明がプロジェクト・マネージャーを務める未踏ソフトウェア事業のプロジェクトとして採択された《Monalisa》と《Phonethica》。前者は音から画像を生成し、また画像から音を生成する。後者はある言語のある言葉の発音から、異なる言語の同じ発音の言葉へのつながりを視覚化する。ICCリニューアル・オープンに際し常設展示として制作されたインスタレーション作品《Rondo》と《音の影》はこの二つのソフトウェアに基づいている。このパネル・ディスカッションは、《Phonethica》の作者である遠藤拓己氏と徳井直生氏、《Monalisa》の作者の永野哲久氏と城一裕氏、そして北野氏に加え、ソニーCSLシニア・リサーチャーの茂木健一郎氏をゲストに迎え、筆者が全体の司会を行なう形式で、この二つのプロジェクトを基底に据えながらソフトウェアを用いた表現全般の可能性について論議した。
まず、前提としてこの二つのソフトウェアが、それ自体が純粋なアート作品として設計されているわけではないことに留意する必要があるだろう。《Monalisa》は、作者である永野氏の音楽表現として制作されたのではなく、他者が《Monalisa》を使用して新しい音楽表現を創出するためのツールとして提示されている。《Phonethica》は、作者である遠藤氏の個人的な世界観の表現として制作されたのではなく、やはり他者が利用することによって異なる言語文化間の偶有的なつながりが浮かび上がることが企図されている。そしてICCに展示されている作品は、これらのソフトウェアをより身体的に理解し、操作するための媒介として作られている点において二次的であると言える。だが、ここで浮き彫りになる両者の共通点は、アート作品としては設計されていないにもかかわらずそこに内在する、価値の転覆を可能にする力学にほかならない。それはコンセプトに偏重し、技術的か、もしくは形態的な説得力に欠けるいわゆる美術作品よりも、これらの秀逸なソフトウェアを通して優れて直感的なメッセージの伝達が行なわれる可能性を示している。
メッセージ性は、問題意識の強度から生まれる。《Monalisa》は、真に新しい音楽性が生まれていない昨今の状況に対する苛立ちを隠さずに、自らその状況に対して音楽制作における代替的な道具を提示しようとしている。《Phonethica》もまた、英語というグローバル資本経済の強力な媒介によって画一化していく現代世界に対する倫理的な憂い(phone + ethica)から、多様性を探索するためのインターフェイスを提案している。彼らは、既存のツールやシステムの上でそうした表現を行なうのではなく、その問題意識を出発点として自らのメディアを構築しようとしているのである。それは新たな実践(プラクティス)を社会的に普及させる努力を要請する。実際に《Monalisa》はソフトウェアを無償で配布し、異なるOS上で作動するために多くの労力を払っているし、《Phonethica》は音声データをそのユーザー群から収集するための専用アップローダーを秀逸なユーザー・インターフェイスとともに提供している。それは何よりも、制度という名の安全地帯に留まらずに、自らの伝達領域を再領土化していく運動なのである。
茂木はパネル上で、メディア・アートが「失効」している理由として、コンセプト(メッセージ性)と技術の乖離を指摘していたが、筆者はまさにその両義的な「難しさ」がメディア・アートという領域を恒常的に肯定するための特性なのではないかと考える。ソフトウェア開発者が増え、ネットワークを介したコミュニケーションが所与となった現在、既存の諸制度の更新が爆発的に起こっていくことは必然だろう。筆者はまた壇上で、クリエイティブ・コモンズやオープンソース・ソフトウェアの動きを、私たちが自らの環境を再定義する能動性を獲得するための実践(プラクティス)として説明した。《Monalisa》と《Phonethica》の作者たちが見せてくれる類いの勇気は、メディア・アートが志向できる倫理性の表われにほかならないのだ。[ドミニク・チェン]
出典:『季刊 InterCommunication』No.58(NTT出版,2006)
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