開催日時： 2007年6月9日（土）14時
会場： ICC 5F ギャラリーA

InterCommunication – ICC Report
インターフェイスは，とりわけ90年代のインタラクティヴ・アートにおいて，異なるものを媒介しながら切断するものとしてソフトやハードのみならず概念的にも重要な問題を提起してきた．特に，筆者も影響を受けた内在物理学者O・E・レスラーによる解釈─混沌の真中を走る稲妻を覗くこと，亀裂としてのインターフェイス─に冒頭で触れた上で，各パネリストの発表に移った．
ニブロール，またオフニブロール（映像），ミクニヤナイハラプロジェクト（演劇）など多彩な活動を精力的に展開する矢内原は，自分が踊りたいと思う身体から常にずれてしまうことからダンスを実現するという．オフニブロールでは，実現された途端に消えていく身体表現というものを前提に，映像としてのダンス—シルエットとなり，群や粒子として消散されていく身体—の可能性が追求されている．自身の身体に映像を通して直面することで，その向こうにあるものに矢内原はインターフェイスしようとする．演劇作品《三年二組》では，身体，映像，言葉を異化的にぶつけることで，演劇やダンスという枠から逸脱していくかのようである．ニブロールの新作《no direction》では，身体が，何でも落としこめる─時計にもりんごにもなる─ものとしてイメージされているという．違和感から出発することで，何にでもなりうる身体へと拡張していく矢内原の身体性は，とりわけここ10年の情報ネットワークの進展と格闘することで生み出されているように思われる．
岡崎は，ギリシア彫刻をバロック以降の問題に接続しつつ，そこに精神性の表出，つまり運動し変化しつづけるものをいかに捉えるかという問題が可視化されているという．一瞬の動きをとらえることで，精神の移行を描くこと，複数の別の状態が重なりあっている状態を描くことが，そこでは広義のインターフェイスと見なされている．外見の向こう側にある持続─自律した単一のシステム─を描くことがライプニッツの結合術へと接続され，インターフェイスが複数の場合，こちら側と向こう側に現われる生命が乖離し複数の実体が想定されるという．岡崎はW・ホガースのカントリーダンスを描いたデッサン（動きの特徴を記憶・再現するためのノーテーションを併記したもの）を挙げ，そこに二つの問題を読み取っている．一つは表向きに持続し変化するもの（運動）をどう捉えるか，そして分割できない自律した系（魂）を持つものをどう表出させるかである．とあるカノンにより形式化されたインターフェイスは，個々の特異性を消去してしまう，そのため人間を複数の主語，複数の魂を持つものと捉えること─例えば似顔絵で，狸など人間以外の系列と結びつける一種の結合術─が導入される．そのような観点から展開されたトリシャ・ブラウンとのコラボレーションでは，棒状の「ポルターガイスト型ロボット」を小道具（かつパフォーマー）として登場させているが，ミニマルなその形態（人型を極限までそぎ落とした記号）は，トリシャの動きをトレースすることで，幽霊のような存在（複数化された魂，他者としての複数の自己）として本人と対峙するものとなる．コンタクト・インプロヴィゼーションをロボットを介して行なうことで，ロボットという記号や形象の彼方に自律的なシステムが見えはじめるのである．
郡司は，インターフェイスを「痛み＝傷み」と捉える視点によって，カント的な「想像上のコギト」を継承するオートポイエーシスの批判的乗り越えを提示した．存在（理念）と規定作用（肉体）のあいだの齟齬や亀裂を排除し，時間や進化と関係なく統一的運動を成し遂げるオートポイエーシスに対して導入されるのが，亀裂としての痛み=傷みである．彼はニーチェ，ドゥルーズを経由し「流産したコギト」を提起するが，そこでは亀裂が亀裂のままであり，外部を憑衣させるという．
郡司によるそのような状態をシミュレートする二次元モデルでは，魚の群れのような集合体が，外部を食べることにより傷み（空泡で表示される外部が通過した痕跡）をともない，多様な移動や劇的な変形を起こしながらも個体は維持されていく．ダメージを導入することで，粘菌に似た「ぐずぐずした全体」がドラスティックに変化するさまは，存在と規定作用の齟齬と調停の終わらないプロセスといえる．
3人に共通するのは，「インターフェイス」を，統一的な運動に亀裂を入れ多様に変形していく複数的な運動と捉える視点である．そこでは同一性を突き崩すシステムが導入されると同時に，常に変化する外部の背後に稼働する自律的なシステムを，いかに感知し創造的なものへと転化するかが問われている．
矢内原のダンスや映像における分散的な身体，岡崎の記号化したロボット，郡司のぐずぐずしたモデルにおいて，自己同一性がどこまで保持され認識されうるのか．変化しつづける外観によってではなく，記号化されたものを介して記憶を想起することによってではないのか，そして精神を作りだしているのは，まさに亀裂=インターフェイスなのではないか．これらの問題を提起した岡崎は，「泡になりたい」と何度か口にしていたが，亀裂により内部に生じる外部痕跡＝泡（郡司）を介し，その都度世界が立ち現われるかのようなインターフェイスの可能性が浮上したセッションであった．［四方幸子］
出典：『季刊 InterCommunication』No.62（NTT出版，2007）

連続シンポジウム「メディア・テクノロジーと生成する〈知〉」「インターフェイスの可能性：創造の接面を探る」

連続シンポジウム「メディア・テクノロジーと生成する〈知〉」
「インターフェイスの可能性：創造の接面を探る」